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黙るつもり?

「アホがっ」  大切なことは何度も繰り返すのが重要だ。そう思って、アスカはハンサムな顔に向けてもう一度言ってみたが、男には聞こえていないようだった。男は確かに眉を顰めたが、アホと言われたのを気にしてという感じではない。アスカの声にさえ気付いていないようだ。銀白色を帯びた錫色の瞳を暗澹と燻ぶらせる様子にも、自問自答に葛藤する心のうちの悩ましさを思わせる。  男が何を思って悩もうが、アスカにはムカつく話なのはわかっている。それもクソマジにヤバい響きに期待し、〝もろタイプ〟な外見に血迷ったせいだ。おまけに男の〝キスマーク〟まである。全ては裏切り者のアソコが悪いとアスカは思った。とどのつまりアスカの自業自得だが、そこは考えない。 「おい!」  さすがに大声で呼ばれては男も気付く。アスカの喉元を掴む手にも力が入った。静かにしろと言いたいようだが、黙るつもりは毛頭ない。男の手を指し、透かさず続けた。 「これ、外せ!」

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