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最高じゃね?

 アスカが身構えたことに、男が激怒した。人間らしい普通さで思いを隠していたが、同じ人間らしさでハンサムな顔を鬼のように歪ませている。ヴァンパイアへの変異を可能にした男の激しさには、扱いにくい煩わしさもありそうだ。人として生きていた頃を思わせる顔付きに、ヴァンパイアとしての無表情さが如何に苦痛なのかが仄めかされる。 「君という男がわからん」  男にはそうとしか言えないのだろう。人間らしい感情的な口調にも答えを出せなかった苛立ちが溢れている。それをずばりと言って憤死させるのは気の毒と、アスカはふざけた調子で言葉を返した。 「おいおい、そこに戻んの?」  その気はなくても、男には嫌みに聞こえたかもしれない。下手をすると一瞬でこの世とおさらばだが、そういった不安はあっても男をからかう楽しさには代えられない。 「けど」  アスカは精霊達のルンルンにならって言った。 「俺はやりてぇんだしさ、男と思ってくれんの、最高じゃね」

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