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気持ちを大きく?

「クソったれが!」  アスカの罵声にも、男はせせら笑うようににやりとし、余裕を見せている。アスカの喉元を掴んでいるのだ。リアルに生殺与奪の権を握る。アスカが幾ら罵倒しようが屁の突っ張りにもならない。わかっていても怒鳴るしかない。 〝おおっ!〟  そこに突然、ヤヘヱの声が響いた。ヤヘヱは男の庇護下にある。精霊達のように追い払われはしない。男の腕時計でぬくぬくと聞き耳を立てていたことだろう。小心者の癖に何かというと割り込みたがり、気に入らないと拗ねて逃げ出す。聖霊達同様にアスカをイラつかせるが、この不利な形勢ではそれも好都合に思えた。 「引っ込んでろ!」  アスカは男の手首で燦然と輝く腕時計に向かって声を張り上げた。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いのたとえもある。口出しして来たヤヘヱが悪い。 〝おおっ?〟  ヤヘヱの煌めきがびくついたように揺れたが、輝きは増した。男に何も言われないのがヤヘヱの気持ちを大きくしたようだった。

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