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距離を取った?
「こいつ……」
取り敢えず、アスカは二十代前半のヴァンパイアを警戒した。見た目のひ弱さに迷わされてはならない。その思いから、耳聡いヴァンパイアに聞かれないよう口の中で続きを呟いた。
「変態屋敷の爺さん程じゃねぇが、なんか変だぞ」
年寄りのヴァンパイアに不気味さを思ったが、二十代前半のヴァンパイアにはそれを上回る奇妙さがある。灰色の冴えないスーツに、これでもかというくらいに膨れ上がった鞄を提げているのだ。ロングドレスにマント姿のアスカも負けそうな場違い感に、しわがれ声にはなかった親しみを思わされても、いざという時の用心まで怠ることにはならない。
「出直せ」
クソマジにヤバい響きの〝失せろ〟といった明確な示唆にも動じないでいた。目をパチパチさせて男とアスカを交互に眺め遣っている。男もそれが普通といった感じに平然と見返すが、アスカには居心地が悪い。思い出したように後ろに下がって男とのあいだに距離を取った。
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