フジが男に突き出したタブレットが、話にあった委任状ということだ。画面を覗き込むと、アスカにも下方に男のサインを待ち望む空欄があるのがわかる。フジの有能さを形にしたようなタブレットで、それをぐいっと男に突き出せるのだから、男の愛に僅かな疑いもフジにはない。高がタブレットだが、そこにもアスカをイラつかせる愛が匂う。 「クソったれがっ」 　悔しいが男の愛は絶対だ。びくつかせる程度では、気を使う隙間もないくらいのフジの余裕を揺るがせられはしない。男が顔付きを父親のようにヘタレさせず、一層の怒りに歪ませようが、男の怒りがフジにないのでは、愛を疑う理由もない。 「木っ端役人どもめが！」 　男は人外税局に激怒し、怒鳴っている。 「たわけた真似をし腐りおって！」 　たまたまそこに存在した不運なのだろう。そのまま怒りに任せてクソ車のボンネットを拳で叩く。クソ車に何が起きたのかは、怪力自慢のヴァンパイアを思えば言葉もいらない。