275 / 814
〝みだい様〟?
「クソったれがっ」
アスカの聞こえよがしな悪態も、和気あいあいと語り合うフジとヤヘヱの耳には届いていない。ヤヘヱが男との出会いから語ろうとした時は、朝になっても終わりそうにない気配だったが、フジのさり気ない誘導で無駄な部分は端折られ、話の中心も変態屋敷の応接室でのことへと無理なく移る。それがアスカには悔しかった。二人で和やかにされるくらいなら、仲良く怯えてくれた方が幾らも増しに思えて来る。
〝御台様をお慕い申される我らが殿のお心を、ヌシめが弄びおったのでござる〟
その場面を語るヤヘヱの口調は聖霊らしく臨場感たっぷりだった。クソガキは感情を食い物にして喜んでいた。それで済む話とアスカは思うが、男が何百年も引きずる昔の女を〝みだい様〟と呼んだことで、占いの小部屋で誤魔化された〝み〟と〝だ〟の意味を知ることにはなった。
「〝身の程知らずだ〟ってたな?」
アスカは独り、むすっと続けた。
「なめてんじゃねぇぞ」
ともだちにシェアしよう!