「ああ、クソっ」 　アスカは忌々しげに声を響かせた。それがヴァンパイアに聞き取れないはずはないが、気にして躊躇うより、どうせ聞いていないのだからと脅すように続けた。 「余裕かましやがって」 　男に愛される自信がフジを楽しませている。そう思うアスカには明るく元気な笑顔が癪に障ってならないが、ここで暴れてもすっきりしないことはわかっている。男を懸けてのタイマン勝負に望みを繋げ、目くるめく愛欲の炎を思って気持ちを宥めた。 「ぐふふっ」 　それでもフジの楽しさに張り合い、低く笑った。フジには不気味な声に聞こえたのかもしれない。どちらが化け物なのかわからないような怯えを微かに浮かべ、小さな声でこう言った。 「あのね、ヤヘヱさん」 　フジの口調に助けを求めてという雰囲気はない。終盤に入ったヤヘヱの話をまとめようとして言ったのだ。男に抱き上げられて応接室から運ばれたアスカにもありがたかった。そこを詳細に語られてはたまらない。