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ふわふわタオル?
「うん、近所付き合い、僕はしたかったんだ」
「いや、その、き……き」
フジに苛立ちの消えた滑らかな口調で返されても、アスカの方はどうしても〝近所付き合い〟と口に出せないでいた。〝気のいいお二人〟の一人がフジというのは聞くまでもない。それがわかったからといって、気軽に〝近所付き合い〟をしていいことにはならない。男を懸けてのタイマン勝負に差し障る。それでこう続けた。
「き……にしてねぇ、ああ、俺は気にしてねぇ、引っ越しの挨拶を持ってった時、あんたがドアを開けもしなかったなんてよ」
アスカは嫌みに取られるような言い方をわざとしたが、フジには通じなかった。フジはアスカの言葉を素直に受け取っていた。
「本当に?嬉しいな、ふわふわタオルの夢心地な肌触りに感動したこと、僕は伝えたくてたまらなかったんだ」
母親に持って行かされた化粧箱の中身を、ここでタイマン相手から聞かされるとは、アスカには予想も出来ないことだった。
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