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忠義者ぞ?
「タ……オル?」
「うん、洗ってもふわふわ」
母親が用意した物を運んだだけのアスカにはフジの喜びがよくわからなかった。返事にしても当たり障りないものしか浮かんで来ない。
「良かったな」
「ご両親様にもそう言われたよ」
フジの笑顔がこれ以上ない眩しさに光り輝いた。ふわふわタオルがフジから怯えを消したことには笑えたが、眩し過ぎる笑顔で話すフジの喜びがアスカには未だ理解出来ないでいた。
「ナギラさんにもお礼を頼まれてたし、お会いした時にお伝えしたんだ」
「ナ……か、そりゃありがてぇ」
アスカは〝ナギラ〟が誰かを問わず、ただぼそっと諦め気味に答えた。〝気のいいお二人〟がヴァンパイアと山男というのは、不動産会社の担当者から聞かされていた。何者かも必然的にわかることだ。
〝ナギラとな〟
代わりにヤヘヱが口にした。精霊には無縁のタオルの話にむくれていたようで、年長ぶって偉そうに続けて行く。
〝むさ苦しくあるなれど、忠義者ぞ〟
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