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ほっと息を?
ナギラが本物の山男というのはアスカにもわかった。もっさりした外見の風呂嫌いだが、領主への忠誠を誓う騎士の如くに片膝を付くような律儀さも具えている。もふもふ姿が見せるそのアンバランスさがたまらないと、フジの弁ではそうなるが、ヤヘヱの話では〝我らが殿〟と知り合ってからもスタイルを変えない一徹者となる。山男らしさを貫きつつも、男に対して真摯にかしずく姿を侠気と取るか道化と取るかは、実際に目にしてからでないとアスカには判断出来ないが、フジとヤヘヱにとって大切な仲間というのはよくわかった。フジはそれをアスカに伝えようとした。
「ナギラさんは有りのままの自分で尽くしているだけだよ、だって……」
フジの頭に〝御台様〟があるのは、アスカの顔色を気にするように口籠ったことで知れて来る。アスカは内心の苛立ちを隠してフジの不安を笑い飛ばした。視線で続きを促すと、フジはほっと息を吐き、眩し過ぎる笑顔で話を継いでいた。
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