「あんた、野郎とナギラ、どっちにムカつ……」 　アスカはフジに答えさせようとして言い掛けたが、ふと思い直して言葉を胸に滑り落とした。心持ち頬を膨らませたフジにナギラへの不満はなさそうに見える。フジにとってナギラは大切な仲間だ。男とは恋人という親密な関係にある。その違いに気付き、間を置かずに続けた。 「いや」 　聞くまでもなかったと思って言葉を繋ぐ。 「野暮だったぜ」 　聖霊も肩入れしたくなる男っぷりだ。男が血を糧としなくなったあとも、色気のない暮らしをしていたとは思えない。アスカならそこを真っ先に問い詰めるが、ヴァンパイアのフジには小難しい掟がある。恋人でもアスカのようには出来ない。不満も募るだろう。 　そうした抑圧こそ怒鳴ってすっきりするべきものと、アスカは思う。タイマン相手に不足のないフジだが、眩し過ぎる笑顔と明るく元気な声音は余りに善良で面白味に欠ける。そこがアスカにはいい子過ぎて鬱陶しくもあったのだ。