307 / 814
冴えない僕?
「事務所の所長が……」
フジが親しげに口にした所長が何者だとしても、男と縁が深いのはアスカにも察しが付く。しかし、男の変異は何百年も前のことだ。何かしらのモンスターでもない限り、女を運んだ先であるはずがない。
「そいつが何?」
アスカは誤魔化されないようきつく問い返したが、フジには素直に頷かれた。
「うん、だから所長の実家がね、昔は名だたる商家で、代表が人間だった頃から懇意にしていたんだ」
「ああ……」
それならわかるとアスカは思った。商家の当主が何代にもわたって秘密裏に支えていたということだ。そう理解したアスカに、フジが一気に話す。
「代表の変異を隠す為に、御台様も一緒に亡くなったことにしたからね、商家なら蓄財も簡単で、ナギラさんが言うように、代表は武事に秀でて文事に優れるから……」
そこでふと言葉を切り、アスカを気にするようにして続けた。
「そんな代表を父親と思うなんて、冴えない僕にはおこがましいかな」
ともだちにシェアしよう!