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男の声が?
「俺の……」
呟きに思うのは母親のことだった。十八歳になった息子を、今もって本名の〝充希〟から〝みーちゃん〟と呼び、父親を引き連れ、せっせと別荘に通う女のことだ。〝みーちゃん〟の呼び名に相応しく息子を猫可愛がりする母親を、アスカはマジに優しいと思っている。それも〝みーちゃん〟が平穏無事であるのが条件だ。危険が迫っているとわかれば、鬼になれることも知っている。アスカが自らの身を喧嘩上等で守れるようにしたのは、母親を鬼にしない為でもあった。
〝僕に優しさはいらないね〟
フジに甘えるように言われ、改めて気付いた。アスカは母親の優しさを守るべきで、欲しがるような年齢にはないのだ。
「ったく」
どこをどう眺めても年下のアスカを、フジが母親と思うはずはなかった。男を父親と慕うフジの激しさに迷わされたようだ。アスカはそう決め付けた。
〝余計なことを考えるな〟
瞬間、笑うように響く男の声が、アスカには聞こえた気がした。
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