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鞭打たれる?
「うるせっ」
アスカはかっとし、すぐに口の中で言い返していた。フジに母親と思われたと考えること自体が余計なことなのは、アスカにもわかっている。それをクソマジにヤバい響きで言われるくらい腹の立つことはない。しかも男の声は幻聴だ。自分で自分を蹴飛ばしたようなもので、哀れという他ない。それも〝亜種〟についてせっ付いたアスカに、占いがどうのとフジが話を脱線させなければ起きなかったことでもある。
「で?」
アスカは丸ごと無視することにして、さらにきつい口調で何もなかったように促した。フジのほわほわした間抜け面からすると、耳聡いヴァンパイアらしくアスカの呟きをしっかりと聞いていたようだ。アスカの促しにも顔を綻ばせている。話をより分け終えた余裕がさせたのだろうが、アスカにはフジのマゾっ気がさせたとしか思えなかった。
「ヌシさんがね、時代の変化を前に……」
フジの声音には鞭打たれるのを喜ぶような震えが確かにあった。
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