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僕達、そろそろ?

「えぇぇっ?」  フジには締まりのない口調で聞き返された。アスカの剣幕に戸惑ったのだろう。〝バカ……なの?〟と続けたそうにも見えたが、さすがにここではまずいと判断したようだ。お得意の時間稼ぎで唸ることも、趣味のマゾっ気で待ての姿勢を取ることもしないでいる。フジは父親と慕う男を恨めしげに見遣るように、お釈迦になったウルトラハイパースポーツカーに目を向け、おもむろに話を逸らしていた。 「そんなことより」  そのわざとらしさに、アスカは男の癒しに対するのぼせ具合を思った。目くるめく愛欲の炎の実現にはフジに代わるタイマン相手が必要だ。それがいとも簡単に見付かった。どこのどいつなのかはわからない。フジに知らん顔をされたからだが、そうされたことで修羅場るにも十分というのはわかった。 「ヤヘヱさん」  フジは視線を玩具のような腕時計へと移し、アスカを見ないようにして言った。 「僕達、そろそろアスカさんを送って行かないと」

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