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逃げられない?
「へ……へぇ」
アスカはまたも情けない声で答えていた。正直なところ〝ヴァンパイアがゲームなんかしてんじゃねぇ〟と怒鳴りたかったが、フジが〝ムチ姫〟の〝しもべ〟と知ってはそれも出来ないでいる。
「や……野郎はさ」
無難な話題に男を思い、しどろもどろに言った。
「あ……甘ぇからな」
「うん」
顔面蒼白なアスカとは対照的に、フジの眩し過ぎる笑顔は幸せそうに光り輝いている。男の息子としての立場を満喫しているというより、〝ムチ姫〟扱いで追い回された男子高校生に思いを馳せ、罵倒も蹴りも褒美と思う秘密組織の会員である喜びを噛み締めているようだ。男子高校生が守秘義務の対象となって隠された存在に変わっても、有能なフジの手に掛かれば法に触れないようにするのも楽勝だろう。きつい促しを欲して、待ての姿勢を取るくらい平気なことだ。
「くぅっ」
アスカはフジに知られないよう低く唸った。逃げるに逃げられないこの状況には悔しさしかない。
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