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これぞ大人の色調?
「てかさ……」
アスカは迫り来るフジを遣り過ごそうと、これという理由もなく言った。モンスター居住区に移るまでの半年間は、〝しもべ〟をまくのもお手の物だった。聖霊達が面白がって彼らの接近に騒いでくれたからだ。忙しく走り回されはしたが、捕まらずには済んだ。そうした精霊達の助けも、ヴァンパイアの巣窟である変態屋敷の駐車場では頼りに出来ない。
「なんつうか……」
ここへは拉致されて来たようなものだった。その当事者である腐れ男は、帰り道を教えないまま、ご丁寧に〝しもべ〟のフジまで残して姿を消した。
「ったくよ」
精霊達の助けがないのだ。深夜のモンスター居住区を闇雲に走り回っても、ろくなことにならない。しかし、これぞ大人の色調と言いたげなヤヘヱの薄暗い煌めきを目の端に捉え、考え直した。はぐれ者のこまっしゃくれだが、精霊には違いない。
「おいっ」
呼び掛けた途端、光の粒をぱっと派手に輝かせたヤヘヱに、アスカは笑った。
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