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同時に喚く?
「おい」
歩きながら森に向かって声を掛けた。目に何も映さない闇は静か過ぎて辛気臭い。景気付けに呼んでみたのだが、返事はなかった。
「クソっ」
アスカはむすっと呟いた。森がいだく闇は暗黒というより、漆黒というべきものだった。駐車場の仄かな明かりにも影響を受けない闇には、威厳がある。その泰然たる品格が時間と空間を歪ませ、迷い込んだ者達を永遠に彷徨わせる。精霊にすれば禁足地に近付くのが悪いとなるのだろう。
「俺んちに……」
それが正解だったようだ。ぽつんと光が現れたと思う間にも、棚引くように広がり行く。ヤヘヱの巨大版と見えなくもない光だが、そこには自然界の聖霊が有する優美さが匂い立つ。命あるものも闇には慄然とするはずだ。しかし、この崇高な輝きには抗えず、誘い込まれるのかもしれない。そうした皮肉に笑いつつ、光に足を踏み入れた。
「ああっっ」
〝うおっっ〟
同時に喚くフジとヤヘヱの叫びを、アスカは背中に受けていた。
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