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背後の闇に?
「待ってよ」
〝ぬほほっ〟
フジは焦っていた。ヤヘヱは酔っているかのように興奮していた。アスカが光に包まれる直前に、フジが瞬間移動をしたせいか、背中に受けた二人の声も、気付くと耳元近くで響いている。
「代表と同じで〝亜種〟の僕も大丈夫なんだけど」
〝ふほっふほっ〟
ヤヘヱの興奮は酔いの回ったオヤジのようだ。意味不明に喚くばかりだが、フジの喚きにそれはない。焦りはあっても、意味のある話をアスカに聞かせようとする。
「精霊さん、僕が幾ら頼んでもからかうんだ、代表のとりなしで解放するにしたってね、二日三日、彷徨わせてからに決まっている、だからアスカさんの側にいないとダメなんだよ」
丁度フジが話し終えた時に、別荘の裏庭がアスカの視界に入った。母親が丹精込めて世話をする秋の草花が、外灯の柔らかな明かりにゆったりと照らされている。そこで足を止めると、アスカを包んでいた光が粛々と、名残惜しげに背後の闇に戻って行った。
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