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笑いしか出ない?

「ふうっ」 〝にひひひっ〟  フジは無事に通り抜けられたことにほっとしたのだろう。片手で軽く持っていたパンパンに膨らんだ鞄を胸に抱き替えて、体を縮こめるようにして重い溜め息を吐いていた。ヤヘヱはさらに杯を重ねたように、興奮しまくりの泥酔オヤジになっている。 「おいおい」  アスカはどちらにも呆れたように言っていたが、微かな赤みを帯びたヤヘヱの煌めきには苦笑が漏れる。 「マジか?」  自然界の聖霊の精気には、噂好きの喋りたがりを酔わせる何かがあるのだろう。ヤヘヱは濃醇な味わいに遣られたといった調子に、へべれけだ。朝には二日酔いに苦しめられるはずと、有り得ないことまで思わされる。  フジの様子もアスカには大差ないように思えた。父親と慕う男によって変異したフジも、男同様に精霊の精気で生きているようだが、〝亜種〟という立場のせいか、聖霊のからかいにも控え目だ。溜め息を吐いて落ち着こうとする人間らしさには笑いしか出ない。

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