350 / 814
頑張んな?
「野郎に泣き付きゃいいだろ」
アスカは敷石を歩くフジの背中に言葉を返した。そこに間違いはないが、フジはヴァンパイアだ。アスカには捉えられない速さで振り向ける。
「甘ぇしさ、なんか言ってくれんじゃね?」
そう続けた時には元から面と向かって話していたような気分にさせられた。
「それじゃダメだよ」
父親と慕う男に甘えるのは簡単だ。男は守ると決めた相手は無条件で甘やかす。しかし、それではフジの苛立ちは解消されない。
「アスカさんならわかってくれるよね?」
アスカはにやりとした。ポーチライトに浮かぶその顔は、母親似の柔な美しさをも逞しくする。すらりと伸びたしなやかな体を包むロングドレスとマントも、アスカの美丈夫さに華やかさを添える。フジにはまさに〝ムチ姫〟と映った姿だが、アスカにはわからない。喜びに放心するフジに、相変わらずの乱暴さで話していた。
「野郎、俺にも余計なことを考えるなっつったクソだぞ、けど、頑張んな」
ともだちにシェアしよう!