355 / 814
ひたすら我慢?
水の精霊は優しく声を響かせていた。荒れ狂う激流では近付くもの全てを容赦なく薙ぎ倒す凄まじさを見せるが、平凡な暮らしの緩やかな流れでは慎み深い儚さを描き出す。
「わかってるって」
アスカは濡れた顔をタオルで拭きながら、蛇口に残る煌めきにゆったりと答えていた。それを聖霊達が都合よく解釈したようだ。期待に胸を膨らませるようなざわめきをアスカに聞かせ始める。
「けどさ」
ざわめきには聞こえないふりも平気だが、水の聖霊の仲裁には配慮をしなくてはならない。それでこう言葉を繋いだ。
「一晩くらいは反省させねぇと、だろ?」
途端にざわめきが静まった。優雅に笑う水の精霊の声だけがしっとりとバスルームに響いている。
「沈黙、上等さ」
たった一晩のことでも噂好きの喋りたがりには耐えられないはずだ。それなのに静寂を仕掛けて来たのだから面白い。朝が来るまでひたすら我慢させることになるが、水の精霊もそれで構わないと笑ってくれていた。
ともだちにシェアしよう!