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匂わせる〝女〟?
「ああ、そうさ」
目くるめく愛欲の炎の儚く悲しい夢がアスカを嘲り、低い声音で本音を吐かせる。
「マジにゃなれねぇよな」
人狼に思いを重ねたせいだろう。アスカは受付カウンターの手前で足を止め、フードを軽く上向かせ、見た目が同年代の下っ端人狼を眺め直していた。きりりとした美丈夫な顔に漂う幼さが、人狼的にはまだまだ母親に甘えたい年頃と思わせる。
「っても、こいつ」
アスカに向けるきつい眼差しは異様な程だ。顔立ちの幼さが茶番にしたとも気付かずに、スーツの縫い目も裂こうというマッチョさで、一端の大人ぶって脅しまで掛けている。
「なんつぅかさ……」
日がな一日、閑散とした受付に立たされるのは苦痛以外の何ものでもない。腹いせに暴れたくもなるだろう。そう考えれば納得もする。
「うん、だな、顔じゃ俺も苦労してっから」
アスカはロングドレスとマントに匂わせる〝女〟には構わず、理想とする山男のヒゲボーボーだけを思って呟いていた。
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