375 / 814
遣り過ぎ?
フードの奥での呟きは独り言だ。誰に聞かせるつもりもない喋りだが、耳聡いモンスターには通じない。ヴァンパイア程ではないにしても、人狼にもひそひそ話は無駄ということだ。それを承知の独り言ではあったが、口にしてつらつら考えたことで、いい調子に顔繋がりの仲間意識が持てたと、アスカは思っていた。下っ端限定でも、服従のポーズや尻の匂いを嗅ぐといった狼特有の帰属儀式にはない親しさに、話し掛ける口調も気安いものになる。
「アルファ、いる?」
アスカは受付カウンターまでの距離を縮めつつ声にしたが、下っ端にはよろしくなかったようだ。怒りに顔を赤く染め、それ自体が生き物のように筋肉をムキムキと盛り上げ、スーツの縫い目が裂ける音まで平然と響かせ始める。
「おいおい」
〝落ちこぼれの用なし〟に用はないと言いたいのはわかるが、それだけの為に人間の姿を真の人狼に変えるのは遣り過ぎだろう。アスカは唖然とし、言葉も続かないでいた。
ともだちにシェアしよう!