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吠えるだけの?

 下っ端人狼の今の状態は本能が理性を上回ったといったところだが、完全にイカれていると言った方がわかりやすいかもしれない。だからこそ、その理由となると、アスカにはさっぱりだった。  思えば、下っ端がムキムキな筋肉でスーツの縫い目を裂いた時にも、きりりとした美丈夫な顔に漂う幼さに変わりはなかった。異様なまでにマッチョというだけで、人間の姿をとどめていた。そこに見せた理性を、アスカは顔繋がりの仲間意識と捉えたのだが、そうした意識そのものが下っ端にはなかった。このイカれた状態も、アスカが親しげにアルファと口にしたのに激怒したと取るより他ないようだ。 「っうか……」  アスカは下っ端の吠え声に顔を顰め、フードを不満げに揺らしながら言葉を繋ぐ。 「吠えるだけのアホたれってな」  下っ端は理性を捨てて真の人狼に変わった。誰もいないとはいえ、朝の日差しに明るいエントランスホールでだ。アスカにはアホとしか言いようがなかった。

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