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解放を頼む?

「っても、ホントのとこさ」  アスカはむかつくだけ無駄と諦め、時間と空間の歪みを作る煌めきへと冗談っぽく声を響かせた。 「からかってんだろ?」  人間種社会で暮らしていた頃は、アスカと自然界の聖霊とのあいだには距離があった。噂好きのかしましい精霊達のように、しつこく日常に絡んで来ることはなかった。アスカが殴り合いの喧嘩を始めても、その激しさに呼応し、空気に振動の波を描いて光の粒を弾けさせたりはしたが、加勢するようなことはなかった。大勢を相手の大立ち回りでも、手出しをせず、傍観者として楽しんでいた。 「自然っても聖霊だしよ、気紛れってこった」  これが昨夜のように闇に現れた光が放つ煌めきなら、下っ端は何を始めたのかも忘れて闇に囚われ、とうに姿を消している。その意味でなら、アスカにも朝の明るい日差しは幸いだった。理由を知らされないままに襲われたのだ。闇に向けて下っ端の解放を頼むのは、どう考えても腑に落ちない。

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