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お笑いな腕から?

「けどさ」  アスカはフードの奥で一人孤独に拗ねてもいた。聖霊の助けに文句はないが、喜んでもいられない。真の人狼が持つ途轍もない速度と腕力に襲われているというのに、時間と空間の歪みが勢いを削ぎ、しかもそれがアスカにだけ見えるといった状況では、病院行きを免れても、心情的には借りを作ったようですっきりしない。 「なんかズルしてね?」  そう低く声を響かせると、ガラス越しに差し込む日差しの煌めきが微笑むように緩やかに揺れた。 「マジで言ってんだぞ」  笑って済まそうとする煌めきに強い口調で返し、そこでやっと目の前に到達した下っ端のパンチをひょいとかわす。 「ホント、やめろっての」  煌めきが下っ端の鉤爪を妙に可愛くしたせいもあるのだろう。アスカの目には分厚い筋肉と黒光りする獣毛までがお笑いに映る。その可愛くてお笑いな腕から繰り出されるパンチを、アスカはマントの裾をふわりふわりさせながら、右に左に悠々とかわして行った。

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