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フードの奥では?
「ったく」
ガラス越しに差し込む日差しに向かって、アスカはむすっと言った。
「あんたのせいだぞ」
時間と空間を歪ませる朝の日差しは、アスカがひょいと下っ端のパンチをかわすたびに、煌めきを楽しそうに弾ませている。気紛れに遊んでいるといった様子だが、アスカの方はそれで身動きが取れなくされてしまった。下っ端に借りを作ったようで、どうにも手を出せないのだ。
「こいつもさ」
何かがおかしいと気付いてもいい頃合いと、アスカは思う。肉体的には人間のアスカに、真の人狼に変わった下っ端のパンチをかわせる訳がない。大人になれない薄い茶色の瞳にも、おかしいものはおかしいと映っているはずだ。それなのに下っ端は戸惑いすら見せずに、ムキになって腕を振り上げる。
「一発かますか?」
不毛なパンチを終わらせるには最良の手段だが、相手は子供だ。それに借りがある。情けないが我慢するしかない。そう理解はしても、フードの奥では不貞腐れていた。
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