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悪いってのか?

「あの野郎……」  時間と空間の歪みといった精霊の助太刀に、リンの鉤爪は無効化されたが、アスカには借りを作ったようにも映り、自分から手を出さないと決めていた。四つ足で尻をフリフリ階段を軽快に駆け上がるリンを眺めていると、高尚な決意の馬鹿らしさに、一発くらいは殴っておくべきだったと思わされて来る。 「ホント、可愛くねぇな」  リンには理由もなく襲い掛かられたが、それが明確な理由の下での行動であるのは、アスカも理解する。アルファに擦り寄り、ねちっこく嫌がらせをしようとしたのでもわかる。理由らしきものを知る仲間意識に縋ったのだ。 「リンは朝からうるさくてね、受付に追い払ったが、まさか君が訪ねて来るとは……」  アルファが何気なく話し出したことで、その思いの正しさを確かにしたが、アスカを宥めようとする口調にはイラつかされた。 「俺が?」  アスカは挑発的に腕を組み、フードの奥から嘲るように返して行く。 「悪いってのか?」

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