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小賢しい作戦?
うぶなアスカにも、この世には二人だけの世界という侵しがたい領域があるのはわかっていた。息子の前で平気でいちゃつける両親に育てられたのだ。周囲がうんざりする世界のことは十二分に理解している。暑苦しいくらいに見詰め合う腐れ男とアルファにも、それに似た何かがあるのは確かなようだ。そうでなければ、アスカが二人の様子にうんざりすることはない。
「だろ?」
アスカはフードの奥で小さく呟き、アルファの指先が伸びて来た時のことを思って続けた。
「アレだってよ」
アルファにはフードが邪魔だった。恨めしげに見ていたのだ。間違いない。
「話っても腹の探り合いだしな、顔が見えねぇと不安なもんさ」
〝そそられる〟という熱い囁きにしても、フードを払い落とすのに、奇襲を掛けたといったところだろう。小賢しい作戦だが、アルファはアスカをのけ反らせた。勝利は確実だったと言える。腐れ男が現れなければ、そうなっていたと、アスカは思っていた。
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