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指が回されて?

「ぐぎぎっっ」  アスカはまたも悔しげに、というより、憎々しげに唸っていた。目の前のモンスター二人の耳には大音響のはずだが、腐れ男は知らん顔を貫いている。アルファがあの妙に艶めいた笑いを厚みのある唇に浮かべたのがわかるだけに、男への腹立たしさも衰えることなく順調に膨れ上がって行く。 「ふざけやがって」  自然界の精霊には遠慮があるが、男にはない。無視するのなら、無理にも振り向かせればいい。アスカは悔しさのままに握った拳を男の脇腹目掛けて突き上げた。それが男には毛程の威力もないのは承知の上だ。怒りに任せて壁を殴り付けたのと同じで、拳が傷付くことになるが気にしない。反撃されて吹っ飛ばされようが、男を振り向かせられたのなら本望だった。ところが瞬間的にひんやりした感触に阻まれ、勢いも止まる。 「な……っ?」  見ると、手首に男の力強い指が回されていた。同時に、アスカは体の重みをなくしたような不快さに襲われていた。

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