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精霊を頼みに?
「ぐっぞっっっ」
〝うっほほっ〟
アスカは腹立ち紛れに激しく何度も手首を振って、腕時計からヤヘヱの煌めきを振り落とそうとした。それで離れる訳もなく、逆にヤヘヱを楽しませてしまう。じゃれ付かれ、嫌がったところで、結局、遊ばれたようなものだった。
「あんたの居場所は!」
腕時計に向ってフードの奥から唾を飛ばさんばかりに怒鳴り付け、反対の手で男を指差し、さらに声を張り上げる。
「野郎のクソ時計だろ!」
ヤヘヱは精霊だ。昨夜は泥酔オヤジ状態でへべれけになっていたが、思った通り、二日酔いに苦しめられた様子はない。仄かな光に漂う煌めきは溌剌とし、高慢ちきな喋りにも活気がある。もう一度ここでぐでんぐでんにする為に、自然界の精霊を頼みにしたいくらいの憎らしさでもある。森がいだく闇といった特殊な状況でなければ、聞き入れてもらえないのはわかっているが、思うだけでアスカの気分は上向いた。しかし、その喜びも一瞬にして消えた。
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