〝うむ〟 　アスカを苛立たせたのは、怒鳴り声に対するヤヘヱのこの頷きにあった。じゃれ付くような軽さならまだしも、風格のある重々しさで返されたのだ。仄かな光に漂う煌めきにも、老熟した穏やかな色合いを映されては、剥れたくもなる。 〝故に〟 　聖霊達と長い付き合いのモンスターは、実体のない彼らとは人目をはばかって話し合う。ヌシにしても、側に人間がいたとはいえ、彼らの喋りには静かに耳を傾けていた。腐れ男にしても、彼らとは言葉少なに会話をする。腕時計相手に声を荒らげるアスカは間抜けでしかないのだが、そこをヤヘヱはアスカより先に落ち着くことで目立たせようとした。馬鹿にするような調子で、こう続けられたので知れる。 〝暫し、ここにて、耐え忍ぶのみにござる〟 　ヤヘヱにとってアスカは配下の一人だ。フジがしたように言葉巧みに持ち上げて欲しいだけにも思えたが、アスカはアスカだ。〝亜種〟の変態のずる賢さを真似るつもりはなかった。