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甘ったれの我がまま?

「おいっ」  とはいえヤヘヱには頑固な一面もある。怒鳴り付けられたことに拗ねて、意固地になっているのかもしれない。説き聞かせるのが自分の役目と、威張りたがりのジジイのように厳めしげに語っていたのに、アスカの問い掛けには答えたくないようで、うんともすんとも言わないでいる。 「で、マジでやんの?」  再度アスカが問い直しても、ヤヘヱの反応に変わりはなかった。半ば呆れて腕時計に視線を向けると、仄かな光にちんまりと漂うヤヘヱの妙に可愛らしい煌めきを目にする。 「クソっ」  ヤヘヱは穏やかで落ち着きのある威張りたがりのジジイでいるのをやめていた。〝ここにて、耐え忍ぶのみにござる〟とか、〝こちらにとどまるも致し方ござらぬ〟とか、年寄り臭く厳然とほざいていたが、腕時計にまつわり付いてキラキラと小さく揺れる愛くるしい姿は、興奮する子供を思わせる。アスカの声に無反応なのも、本来の甘ったれの我がままに戻ったからのようだった。

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