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逃げがある?
「うるせ!」
続けて大きく声を張り上げたのは、ヤヘヱを黙らせるのは無理としても、拗ねて引っ込んでくれるかもしれないと、そう期待してのことだった。瞬時に願いはついえた。強気が裏目に出たようで、やたらと明るいヤヘヱの不気味な笑いを聞かされることになる。
〝ぶっぶぶっぶっ〟
「ああん?」
喧嘩上等で身に付けた強面な聞き返しにも、ヤヘヱは恐れを見せない。アスカが腕をマントの外に出し、腕時計をきつく睨み付けても、仄かな光に漂う煌めきは楽しげだ。キラキラと気ままに可愛く揺れている。
「クソっ……たれ、がっ!」
アスカにはわかっていた。どう頑張っても精霊には勝てない。怒鳴ったところで、馬鹿を見るのはアスカの方だ。これは永久不滅の定めであり、ヤヘヱのようなはぐれ者でも、その恩恵にあずかれる。悔しいが、ヤヘヱには飽きるまで好きに喋らせるしかない。慰めといえば、精霊達と過ごす中で培った聞き流しという逃げがあることだった。
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