モンスター居住区の一部区域の観光化は、全面解放に向けての実験的な試みだった。裏に優遇処置の終了という狙いがあるとしても、表向きは人間に根強く残るモンスターへの恐怖を払拭する目的で始まった。変態屋敷で目にした男二人が、ヌシと変異の交渉をするといった愚行に出たのからして、試みの成功は確かなようだ。 　男二人は金持ちで地位も高そうだった。老いを知らない体となって、モンスター居住区を支配するつもりのようにも見えた。全面解放となればモンスターも居住区から解放される。何をするにもどこへ行くにも自由になる。しかし、ヴァンパイアになるのは楽ではない。それが二人にはわかっていなかった。 　途轍もない痛みを伴う変異には強く激しい感情が必要だ。その痛みを耐え抜いた者だけに変異は許される。金で買い取れると考えるような男二人に、耐えられはしないのだ。しかも死に至った魂には、まったき闇の住人になり果てる未来しか与えられない。