459 / 814
魅惑的な憧憬?
「うーん」
アスカが唸ったのは、案内係のがっしりした体格を称賛してのことだった。それでも心のうちでは別のことを思い、唸って考えをまとめていたのも事実だった。
〝身体及び衣服を清潔に保つこと〟
この注意書きは山男にも徹底されていた。全身毛むくじゃらな髭面だが、むさ苦しさを思わせず、爽やかで心地のいい香りまで漂わせているのだ。聞きしに勝る清潔感には目を見張るものがある。
「てか……」
アスカにとって山男を語るとすれば、ナギラから始まる。フジの無駄話のせいだが、そのフジによると、ナギラは風呂嫌いということだった。それもどうやら個人的嗜好と言えそうだ。毛艶が輝くばかりに美しい案内係を、風呂嫌いとは到底言えない。逞しさとの相乗効果からなのか、もふもふな髭面さえ見目麗しい好男子に見えて来る。アスカが魔女のイメージを大切にするようなものかもしれない。恐怖と神秘の差は僅かだ。魅惑的な憧憬になれるかの違いでしかない。
ともだちにシェアしよう!