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魅惑的な憧憬?

「うーん」  アスカが唸ったのは、案内係のがっしりした体格を称賛してのことだった。それでも心のうちでは別のことを思い、唸って考えをまとめていたのも事実だった。 〝身体及び衣服を清潔に保つこと〟  この注意書きは山男にも徹底されていた。全身毛むくじゃらな髭面だが、むさ苦しさを思わせず、爽やかで心地のいい香りまで漂わせているのだ。聞きしに勝る清潔感には目を見張るものがある。 「てか……」  アスカにとって山男を語るとすれば、ナギラから始まる。フジの無駄話のせいだが、そのフジによると、ナギラは風呂嫌いということだった。それもどうやら個人的嗜好と言えそうだ。毛艶が輝くばかりに美しい案内係を、風呂嫌いとは到底言えない。逞しさとの相乗効果からなのか、もふもふな髭面さえ見目麗しい好男子に見えて来る。アスカが魔女のイメージを大切にするようなものかもしれない。恐怖と神秘の差は僅かだ。魅惑的な憧憬になれるかの違いでしかない。

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