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ヤヘヱの従者に?
「本日はお珍しい方をお連れですね」
案内係の山男が親しげに話し掛けて来た。観光客に人気の店だけあって、相手をほっとさせる喋りを心掛けているようだ。重量感のある声音をすっきりと滑らかに響かせ、アスカがヤヘヱの〝お連れ〟扱いされたことにむすっとしても、仕方ないと思わせる程度の気遣いも見せている。アスカには初めてでも、ヤヘヱには馴染み深い縄張りの店だ。腐れ男なくして存在し得ない精霊と知られていようが、側役と自認するヤヘヱの顔が潰されることはない。
〝うむ〟
いつの間にか腕時計を抜け出て、マントの肩先に移動したヤヘヱの偉そうな口調からして、案内係の対応にすこぶる満足しているのがわかる。
〝いつもの席で構わぬぞ〟
「かしこまりました」
ヤヘヱの〝お連れ〟扱いされたことで、アスカはいともあっけなくカフェに入れた。このまま素直に付き従えば、情報集めにも具合がいい。ヤヘヱの従者になる気は更々ないが、乗らない手もない。
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