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座ろうぜ?

 にこやかさに無表情さを思うのは奇妙なものだが、そこには共通する匂いがあるように、アスカには思えてならなかった。男の無表情さはヴァンパイアの内情によるものだ。ヌシに胸のうちを気取られでもしたのなら、遊び半分に感情を弄ばれ、悶え苦しまされる。そうならない為の自衛策であり、本来は客をもてなそうという案内係のにこやかさと比較するような話ではない。それも常日頃から寡言を貫き、思いを悟らせない男の無表情さといったところでなら、忌々しいことに、案内係の不動のにこやかさにも相通ずるものがあると言える気がした。  悟らせないとは、情報を引き出せないことを意味する。カフェに来た理由を思うと残念でならないが、モフモフ山男が役立たずとわかっても、諦めたりはしない。個室にはまだ喋り好きのお調子者がいる。 「ヤヘヱさんよ」  アスカは乗せるように明るく呼び掛け、〝うむ〟と返される前に素早く言葉を繋げた。 「折角だしさ、座ろうぜ」

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