477 / 814

朱塗りの小箱?

「クソっ」  椅子に座ってすぐに出た言葉が、アスカの思いを表していた。能力によって見える明るさは自然界の聖霊がもたらす光だが、彼らの光に照らされるカッティングガラスもまた、他とは違う姿をアスカに見せる。ガラスには移り行く季節の美しさが霞むように描き出されている。聖霊にある陰陽の相対する力が絵にしたささやかな睦み合いだ。それが女顔をより可愛くするアスカの澄んだ瞳に映されていた。 「では……」  案内係の唐突な口出しは、接待の手順に従っているだけのようでも、アスカには救いに思えた。未だ恥じらいに顔を染める案内係の話に耳を傾けるのは、堪能すべき絵画を無視したのにもいい言い訳になる。 「ヤヘヱさんのお席をご用意させて頂きます」  しかし、これには驚いた。アスカは目を見開き、案内係がテーブルへと伸ばした手の先に視線を向けた。そこには朱塗りの小箱があった。その蓋が外されると、絹の敷物に載せられた腕時計が露わになった。

ともだちにシェアしよう!