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喜びを見る?

「で……」  アスカは案内係に答えようとして、顔を緩やかに上向けた。本当のところは胡散臭いにこやかさに拳をめり込ませてやりたい気分でいたが、カフェに来た理由を思い出し、凄みを利かせて問い返すだけにした。 「あんた、俺の為によ、何してくれんの?」   それで案内係が震え上がるとは思っていない。にこやかさを顔に貼り付ける案内係には、腐れ男の無表情さと同等の強堅とした信念がある。アスカの女顔に驚き、嘲笑し、恥じらってみせるといった余裕も持ち合わせている。凄まれたくらいで震えるはずがない。 〝身体及び衣服を清潔に保つこと〟  この注意書きに騙されてはならないのだ。全身毛むくじゃらな髭面からむさ苦しさをなくそうが、むくつけき山男の荒々しさまでなくせはしない。アスカの凄みには憧れの山男へのちょっとした挨拶と言えるものもあったのだった。 「てか……」  案内係の目に同じ威圧を期待したのに、喜びを見る。そこに何故か寒気を覚えた。

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