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喋らせられない?

「えっと……」  アスカは深く考えないよう何気なく呟いた。それなのに案内係の目に浮かぶ喜びから顔を背けられないでいる。 「ははっ」  へらへらと誤魔化すように笑ったのも、速攻で逃げ出したいのに逃げ出せない現実を変えようとしてだ。それが無駄な頑張りなのもわかっている。案内係はアスカの女顔を馬鹿にしていたのではなかった。恥じらってみせたのも、ムチ姫を崇拝する〝しもべ〟として、勢い付いたアスカの悪態に興奮し、顔を赤くしていたに過ぎなかった。 「てめぇはよ!山男だろ!」  これはアスカの心の叫びだ。実際に声には出していない。 「由緒正しいバケモンだよな!人間なんかに感化されやがって!誇りってもんがねぇのか!」  そう怒鳴りたい思いはあっても、罵倒が褒美と理解するからには、口を固く引き結ぶしかない。アスカにはつらいことだが、案内係にも別の意味での忍耐となる。しかし、それではヤヘヱを調子付かせて喋らせられないことにもなる。

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