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それは困る?

「ク……っ」  悩めるアスカの頭に、きつい促しを欲して明るく元気に待ての姿勢を取っていたフジの溌剌とした顔が思い浮かんだ。それと比べると、案内係の様子は大きく違った。アスカの凄みを利かせた声音に喜びを見せながらも、心なしか哀愁を帯びた眼差しで待ての姿勢を取っている。その姿は主人にお預けを食らってしょぼくれる大型犬を思わせた。  これも案内係がアスカの為に椅子を引いた時から始めていたことだ。ヤヘヱが〝うむ〟を連発しなければアスカにもとうに気付けていた。案内係にとっては褒美をもらえる機会をヤヘヱに横取りされたようなものだった。 「ク、クっ」  アスカは思いのままに怒鳴りたかった。そこを歯を食いしばって耐えた。哀れな大型犬に見えようが、案内係は人間に毒された変態モフモフで、アスカが憧れる山男ではない。相手をしては負けと心に強く言い聞かせるが、そうなるとやはりヤヘヱから情報を引き出せないことになる。それは困る。

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