484 / 814
フジの入れ知恵?
「ク……ク、クソっ」
アスカは精一杯に気持ちを抑えて、固く結んだ唇の隙間から悔しげに声を漏らした。そして冷たく突き放すように続けて行く。
「……ったれがっ」
逃げ回る羽目になった経験から、この程度の罵倒でムチ姫の〝しもべ〟が満足しないことはアスカにはわかっている。代わりに蹴り飛ばすという手もあったが、ロングドレス姿で椅子に縛り付けられているような状態では難儀という他ない。喜びに打ち震えるのには今一つだろうが、これで許してもらうしかなかった。ところが意外にも案内係に不満はないようだった。山男の誇りをなくした変態モフモフであるのに、しつこさを見せず、突如として職務に目覚めたかのような恐縮ぶりでこう返して来たからだ。
「ご説明が至らず、まことに申し訳ございません」
それでも怪しさは残されていた。この台詞もフジの入れ知恵によるのかもしれない。そうアスカに思わせた程に、その声音は興奮気味に掠れていたのだった。
ともだちにシェアしよう!