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喜びの裏に?

 したくもないことを遣らされるのは疲れるものだ。口慣れた罵倒も精彩に欠け、アスカにはうるさくがなり立てているとしか響かない。 「クソがっ!」  続けて怒鳴ってみても同じことだが、案内係には違っていたようだ。 「ほ……本日のラ……ラ」  感極まって声を詰まらせ、毛むくじゃらな髭面の奥の顔を真っ赤にし―――隠されて見えないはずの赤みをも見せ付けるようにして、途切れ途切れに話を継いで行く。 「ラ……ンチにつ……ついて、ご……ごせ、説明を……」  完全に〝しもべ〟状態の案内係に、腐れ男の無表情さと同等のにこやかさはない。頑な信念は崩壊したといった具合だ。これなら男の〝癒し〟についても、ヤヘヱを頼みにすることなく楽に聞き出せるだろう。そう思いはしても、アスカは何もしないでいた。モンスターの〝しもべ〟は狡猾極まりない。フジにはいいようにされていた。案内係も喜びの裏にどういった策略を巡らせているのか、わかったものではない。

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