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喉を潤すだけ?

 カフェには腐れ男の〝癒し〟探しの為に足を運んだ。その〝癒し〟とのタイマン勝負には、アスカの人生において唯一となるはずの目くるめく愛欲の炎が懸かっている。山男が営むカフェを目指したのも、恋人として先んずる対戦相手を思ってのことだ。とはいえ、勝負は時の運とも言われる。アスカの方が形勢不利ではあるが、すんなり負けるとは限らない。ヤヘヱから情報を引き出せたのなら、勝ちの割合は大きくなる。それにはあと少し、案内係に合わせなくてはならないが、耐えてみせる。ムチ姫の〝しもべ〟に邪魔はさせない。  そうした思いの中で聞かされたランチメニューは、キノコたっぷりのトマトグラタンに木の実のパウンドケーキの生クリーム添えのデザート、飲み物はコーヒーに紅茶にリンゴジュースから選べるというものだった。 「ったく」  アスカはむすっと小さく呟いた。空腹を満たし、喉を潤すだけのことに、こうまで苦しまされたのが悔しくてならなかった。

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