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憧れるには若過ぎる?
「ならさ」
アスカの笑顔に裏はなかった。それも案内係へと顔を向けるまでのことだ。その時には、胸に一物あったことを否定はしない。笑いにも奸計の匂いを含ませ、見え透いた明るさで言葉も繋ぐ。
「さっきのランチってのでいいぜ」
その注文で体良く追い払われようとしてることは、案内係にも気付けたようだ。アスカが言ったと同時に悄然とし、それでも果たすべき務めを思ったのか、潤む瞳をきりりとさせる。悲しみを打ち遣り、苦難に立ち向かう勇者の如くに個室の階段に足を向ける。
「クソがっ」
アスカは虚勢を張って去って行く大きな背中に呟いた。
「てめぇなんか、戻って来んな」
言霊が応えてくれた。ランチは早々に運ばれて来たが、給仕は案内係より若い山男に代えられていた。人間でいうのなら、高校生アルバイトといったところだ。カフェの店員らしい爽快さで仕事をこなす。アスカが憧れるには若過ぎるが、ムチ姫の〝しもべ〟でないだけで理想には思えた。
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