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前人未到の?

「クソがっ」  耳聡いモンスターには小声でも十分だが、アスカはわざと声を大きくして言った。自然界の聖霊が時間と空間を歪めてくれなかったせいで、『人間外種対策警備』のエントランスホールでの超人的な激闘が、アスカには望めなかった。人間としての視力が見せる閑散としたままの平穏な空間に一人取り残されていたようなもので、聖霊達が大興奮していただけに、予定を変更してさっさとホールを抜け出してやった。それで男を怒らせたとは言い掛かりも甚だしいが、アスカは怒鳴り返さないでいた。悪態だけで気持ちを抑えた。たまたまアスカの〝クソ〟と喋りが被ったのもあって、アルバイト風の給仕にびくつかれたが、これもむすっとするだけにとどめた。 「こちらは……」  アスカを意識しつつも、畏まって話す内容は、男が飲み干したグラスの中身についてだ。精霊からの提供品なのは当然として、今回のそれは前人未到のどこぞの山奥に湧く名水ということだった。

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