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ドアを開ける案内係?

「あい?」  承知を強めた殿様言葉も、そこで切ればお笑いだ。男も笑ってくれている。そう思ったが少し違った。男の笑いはハンサムな顔に妖しさを醸し出していた。精霊達のかしましい喋りが原因ではない。もちろんアスカのせいであるはずもない。男は細く柔らかな声への愛によってヴァンパイアに変異した。胸に秘める激情も声への愛に他ならない。身を乗り出したことで妖艶な笑いを間近にするという僥倖に恵まれても、襲い掛かってはならないのだ。アソコが不満げに震えようが、ここは踏みとどまって目的を果たす。 「わかった?」  アスカは続きを口にした。承知した話に〝癒し〟がいる。それで聞き返したのだが、答えは知れなかった。一瞬にして体がカフェの外へと運ばれたからだ。出入り口では速さが僅かに遅くなり、ドアを開ける案内係の手慣れた姿も目にしている。しかし、次の瞬間には個室がある辺りの外壁にもたれ掛かっていた。 「ぐえっ」  当然えずいていた。

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