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案ずるな?

 男はアスカに応えると言った。〝癒し〟がどこのどいつなのかを教えるだけのことに、殿様らしい大層な物言いで言ったのだ。〝癒し〟が今も別邸にいるというのなら、それもわからなくはなかった。直接会わせた方が手っ取り早い。アスカの硬派な頭で考え付くのはその程度だが、口止めまでした男の真意が謎で、しっくり来ないでもいた。 「うーん」  唸ってみても始まらない。いずれにしても聳え立つ山に登るのだから、肉体的に人間のアスカには装備が必要になる。日を改めるしかないのだが、何かと瞬間移動をしたがる男には取るに足らない話のようだ。唸り声が消えるか消えないかのうちに、アスカは男の腕に持ち上げられていた。 「てめっ!」  まずは叫んだ。そして構えた。ヴァンパイアに逆らうとなると病院送りは必至だが、悩んでいる暇はない。胃の為にも断固拒否しなくてはならない。男の機先を制するような発言がなければ、マジに暴れるつもりでいた。 「案ずるな」

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